木下雄介『鳥籠』

監督:木下雄介(2002年/DV/カラー/38分 英題:Bird cage)

生まれる前に戻って、お母さんを探すのです。
ある孤児院の社会見学の帰り、バスから1人の少年が脱走する。目的は母親探し。行くあても所持金もない彼だったが、公園でパフォーマンスをしていたピエロのおじさんに拾われ、アシスタントとして寝食を共にするようになる。ピエロのおじさんはかつてヤクザで、苦労をかけた妻が離婚後に亡くなったこと、1人娘が知り合いに引き取られて東京で暮らしていること、その娘に時折、自分の写真を送っていることなどを少年に聞かせるのだった。少年は母を探すが、名前すら知らないために手がかりもつかめない。真っ白な記憶の奥の母に近づくため、自ら少女になって踊る少年。だが手探りの行為は実を結ばず、帰ってきた彼を待っていたのは予期せぬ出来事だった。少年はおじさんの娘を訪ねるが、そこで彼が出会ったのは…。

「鳥は目を開けた時に初めて目にした動くものを母親だと認識する」
この話をモチーフに1人の少年の旅を描くが、ドキュメンタリー風の飛び込み撮影、ポラロイド写真、ロケ、つくり込んだ室内など、異なるテイストの映像を組み合わせているにも関わらず、心象と具象のつながりが驚くほどなめらか。痛々しい日常から、驚きの展開を経て、幸福で美しいラストへと、観客はいつの間にか少年の旅に同行している。監督の頭の中にあるイメージの強力さ、その映像化に照明、音楽、美術、出演者の削ぎ落とされた演技と、スタッフワークが大きく貢献している。

(「PFFアワード2003」 WEBサイトより転載

『鳥籠』
監督・脚本・撮影・編集:木下雄介
助監督:斉藤慶一郎
スタッフ:岩井啓悟、江崎有紀、川谷 佳、木村幸彦、坂本悠多、鈴木智子、瀧澤めぐみ
衣装:篠原亜希
出演:安達真人、山田剛之、近藤千鶴、中野恵子、楠部知佐子、桐山聖昇、管野賢人、近藤綾乃
★準グランプリ&観客賞(東京)